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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)4378号 判決

原告(反訴被告) 国土設営株式会社

右代表者代表取締役 上村正行

被告(反訴原告) 光洋地建株式会社

右代表者代表取締役 入江正

右訴訟代理人弁護士 稲井孝之

主文

原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する請求を棄却する。

被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する反訴請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを五分し、その一を被告(反訴原告)の、その余を原告(反訴被告)の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)は原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)に対し、金三七万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和五二年五月三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨。

訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

原告は被告に対し、金七〇万円を支払え。

反訴に関する訴訟費用は原告の負担とする。

仮執行の宣言。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

主文第二項同旨。

反訴に関する訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  原告は不動産売買の仲介業を目的とする株式会社である。

2  原告は、昭和五一年六月一六日、訴外井上薫から同人所有の別紙物件目録記載(一)のマンション(以下「本件マンション」という。)の売却を依頼され、次いで、同年一〇月初め頃、本件マンションの売却ができたときの代替家屋の購入方の依頼も受けた。

3  原告は、昭和五一年一〇月頃、被告から建物の買入方仲介の依頼を受け、これを承諾した。

4  そこで、原告は、右井上薫、被告間に本件マンションにつき売買契約を成立させるべく仲介行為をなし、その結果、昭和五一年一〇月一四日訴外井上薫が被告に対し本件マンションを代金一、〇五〇万円で売る旨の売買契約が締結された。

5  原告は被告に対し、昭和五二年四月二八日到達の内容証明郵便をもって、右仲介契約に基づき宅地建物取引業法第四六条によって認められる最高限度額である仲介手数料金三七万五、〇〇〇円を同年五月二日限り支払うよう催告した。

6  よって、原告は被告に対し、右仲介手数料金三七万五、〇〇〇円及びこれに対する支払催告期限の翌日である昭和五二年五月三日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴予備的請求の原因

1  前記のとおり、原告の仲介により昭和五一年一〇月一四日、訴外井上薫と被告との間で本件マンションにつき売買契約が締結された際、被告は原告に対し、被告が本件マンションを他に転売するにつきその仲介を委ねたが、さらに、同年一二月末日、たとえ原告の仲介によらず被告が他に本件マンションを売却した場合でも、被告は原告に対し相当額の仲介手数料を支払うべき旨約した。

2  原告は、本件マンションにつき転売契約を成立させるべく販売努力を続けた。

3  ところが、被告は原告の仲介によらず独自に本件マンションの販売活動をなし、昭和五二年二月二日、訴外株式会社玉屋商会との間で同会社に対し本件マンションを売る旨の売買契約を締結した。

4  よって、原告は被告に対し前記約定に基づき宅地建物取引業法第四六条によって認められる最高限度額である仲介手数料金三七万五、〇〇〇円及びこれに対する前記内容証明郵便による催告期限の翌日である昭和五二年五月三日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  本訴請求の原因に対する答弁

本訴請求の原因1の事実は認める。

同2の事実は不知。

同3及び同4の各事実は否認する。被告は、原告の仲介により、昭和五一年一〇月一四日、訴外郷幸一を代理して、訴外井上薫との間で、同人に対し別紙物件目録記載(二)の土地付家屋(以下「本件家屋」という。)を金一、八〇〇万円で売却する旨の売買契約を締結したが、その際、井上薫は右売買代金の支払をなすためには、本件マンションの売却代金の支払を得ることが必要であったため、右売買契約を成立させる便法として、被告は井上薫から同人所有の本件マンションを代金一、〇五〇万円で下取りし、右代金の支払と前記代金の支払とを対等額で相殺勘定にしたことはある。したがって、右取引において成立した売買契約は本件家屋に関するもの一個のみである。

なお、被告は、昭和五一年一二月八日、原告に対し、右取引に対する仲介手数料として金三六万円を支払っている。

四  本訴予備的請求の原因に対する答弁

本訴予備的請求原因1の事実は否認する。

同2の事実のうち、原告が本件マンションの転売契約を成立させるべく販売活動をしていた事実は認めるが、それは被告主張のような仲介契約に基づくものではない。

同3の事実は認める。

五  反訴請求の原因

1  原告は、本訴請求の趣旨第一項の請求権がないにもかかわらず、故意又は過失により不当にも本訴を提起し、被告の応訴を余儀なくさせた。

2  原告の右行為により、被告は以下の損害を被った。

(一) 弁護士費用合計金二〇万円

被告は、訴訟手続、訴訟技術に明るくないから、原告の提起した本訴請求に応訴するため弁護士稲井孝之に対し訴訟委任し、着手金一〇万円及び成功報酬金一〇万円合計金二〇万円の支払を約した。

(二) 慰藉料金五〇万円

被告は、いまだかつてトラブルを起こしたことも又訴訟を提起されたこともないため、原告の本訴請求によって悶々とした日々を送らざるを得ず、ひいては仕事上においても能率低下、ミスの増大という多大の影響を受けた。これによって受けた被告の精神的打撃は大きく、これを金銭に換算すると金五〇万円が相当である。

3  よって、被告は原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき右損害合計金七〇万円の支払を求める。

六  反訴請求の原因に対する答弁

反訴請求の原因1の事実のうち原告が被告に対し本訴を提起している事実は認め、その余の事実は否認する。

同2の事実はいずれも知らない。

第三証拠関係《省略》

理由

(本訴請求について)

本訴請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

原告は、昭和五一年六月一六日、訴外井上薫から同人所有の本件マンションの売却方を依頼され、次いで同年一〇月初め頃、本件マンションの売却ができたときの代替家屋の購入方の依頼も受けたこと、その後、原告の仲介により、被告は、訴外郷幸一の代理人として、本件家屋を井上薫に代金一、八〇〇万円で売ることとなったが、右代金の支払につき同人に資金的余裕がなかったため、本件マンションを被告が金一、〇五〇万円で買受け、右各代金を相殺勘定とすることにして右井上の代金調達の便をはかることとしたうえ、昭和五一年一〇月一四日、右両物件につき右のとおりの各売買契約(以下これらを「本件取引」と総称する。)が締結されたこと、井上薫と被告は、本件マンションの売買契約締結の際、売主である井上薫は本件マンションを売却して本件家屋を郷幸一から購入すること及び右本件家屋についての売買契約が井上薫の責に帰すべからざる事由により不成立となったときは本契約も無条件解約とする旨特約したこと、本件家屋の売却代金一、八〇〇万円のうち郷幸一に引渡せなかった分については、本件マンションを他に転売して得られるべき代金をもって充てることとしたこと、原告は本件取引終了後、仲介手数料として井上薫より金三八万円を、被告からは金三六万円をそれぞれ受領したこと。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上認定の事実関係からすると、本件マンション、本件家屋のそれぞれについて別個の売買契約が成立したものであるが、本件マンションの売買は被告にとっては本件家屋を売却するための手段にすぎず、本件マンションを買受けることにつき、自己使用、転売利益の取得等の固有の利益を得ることを目的としたものでないこと、従って、被告は、本件家屋の売買に関する仲介手数料金三六万円の支払をもって本件取引に関する仲介手数料の支払をしたものということができる。

しかして、原、被告間に本件マンションの売買について仲介契約が締結されたとの原告主張事実については、これにそう原告代表者尋問の結果は被告代表者尋問の結果及び右認定の事実関係に照らして採用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

従って、本件マンションの売買契約につき独立の仲介契約の存在を前提とする原告の請求は理由がない。

(予備的請求について)

本訴予備的請求の原因1の事実について判断するに、右の点に関する原告代表者尋問の結果は、《証拠省略》に対比してたやすく信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

従って原告の予備的請求はその余の予備的請求の原因事実につき判断するまでもなくその前提を欠き、理由がない。

(反訴請求について)

反訴請求の原因1の事実のうち、原告が被告に対し本訴請求の趣旨第一項記載の請求権を有しないことは前記認定のとおりであり、原告が被告に対し、右請求権に基づき本訴を提起し、被告をしてこれに応訴することを余儀なくせしめた事実は当裁判所に顕著である。

次に、原告に被告の権利を害するについての故意、過失が存したか否かについて判断するに、前記認定のとおり、本件取引においては法律上は二個の売買契約が成立しており、ただその二個の売買契約が取引上密接に関連する故に、本件仲介手数料請求権の存否の判断につき特別の考慮を要する事案と認められる。このように右請求権の存否の判断につき単なる事実の認識のみならず、その事実につき特殊法律的な評価が必要とされる本件においては、原告が本訴における請求権の不存在を認識し、あるいは認識しうべきであったものとはいまだ認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

従って、原告に不法行為成立の要件である故意又は過失があったものといえないので、被告の反訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

(結論)

以上によれば、原告の本訴請求、被告の反訴請求はいずれも理由がないのでこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田日出光)

〈以下省略〉

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